Activity2024年度の活動内容

2023年度OEJAB派遣員報告

2023年度OEJAB派遣員報告

ベルベレーデ宮殿の前で、全員でジャンプ!この躍動感を以て、これからの道を切り開いて行きます!
写真左から金子紗也佳さん・大野誠尚さん、巳上小楽咲さん、三浦愛佳さん、出倉正啓さん、矢野由佳さん

新しい発見・新鮮な体験・見て聞いて沢山勉強しました

3月3日(日)から12日(火)まで、2023年度OEJAB派遣が実施されました。今回も各人の見たもの経験したことを、それぞれが撮影した写真と共に報告書として提出して頂きました。6名の個性豊かなメンバーが体験したことはと、気になるところです。十人十色とはよく言ったもので、それぞれの視点、考えが盛り込まれた素晴らしい報告書が揃いましたのでご紹介します。6名の独自性溢れる報告書をお楽しみください。(学校・学年は派遣当時を記載)

ウィーンでの共生社会と友愛思想
東京大学理学部4年 出倉 正啓

晴天のカールス教会。この日以降は曇天であった

今回の研修でお世話になったOEJABの関連施設として、老人ホーム・職業教育センターを訪問した。
老人ホームは個室も相部屋もかなり広々と感じられた。個人が支払う額は最大でも年金額の8割に抑えられ、残りはウィーン市が支払うという制度であり、高齢ではないが若年性認知症により1人での生活が難しい人などの受け皿にもなっていた。バスタイムには子ども時代を想起させる花の香りを使うなど、最大額を抑えつつも入所者の高いQOLを保証する施設のあり方は、日本の制度設計を考えるうえで非常に参考になった。
教育センターでは様々な年齢層の方が金属加工やIT・ドイツ語の訓練を受けていた(写真:出倉4/5)。このような施設では訓練者・先生・OEJAB三者すべてに対して政府から経済的な支援があり、高福祉国家の再配分のあり方を目の当たりにした。ITのクラスはアフガニスタンやシリア出身の少年たちがほとんどであり、近年の難民の流入を反映していた。ドイツ語クラスにはウクライナ避難民もいた。
これに関して、連邦首相府では移民と統合政策についてのプレゼンを聞いた。オーストリアは歴史的に多民族で構成されており、移民を受け入れる土壌があるという説明がなされた。日本では難民受け入れをかなり絞っているという議論がよくされるが、オーストリアは人権重視であり、出自や宗教を問わず難民や亡命者を受け入れる方針が維持され続けているそうだ。
高齢者のあり方も、移民受け入れに対しても、相互理解・相互扶助たる「友愛思想」、それを反映した「共生社会」を体現する現場を見学し、まさに日本も見習えるあり方であると感じた。一方で、議会の前では大音量でガザ侵攻に対するアラブ系住民によるデモも見られた。(写真:出倉9)移民の文化と日本の土壌がぶつかる場面(昨今の埼玉におけるクルド系住民の問題など)はこれから増えると思われるが、そのような事態に対して制度的にも心情的にもどう対応していくか議論を重ねていくことが、共生社会に向けた重要な視点であると考えた。
いずれにしても、実際に訪れての体験は貴重なものであることを痛感した。友愛を通して得たこの体験を大切にしたい。

表裏一体の「技術」
東北大学大学院2年 大野 誠尚

国連本部前でジャンプする図。全世界の平和と益々の飛翔を祈念し、跳びました。日頃の筋トレの成果が出ました。

「技術と社会の架け橋として世の中に貢献したい」という想いから、私は理系から総合商社を志し、4月から働き始めました。本オーストリアの派遣プログラムに応募した理由は、現場に来なければ分からない1次情報を収集し、真の社会課題を知りたいと考えたためです。実際に参加し、最も印象に残っている2つの経験をここでは報告します。
1つ目は、オーストリア最大の公益団体であるOEJABの職業訓練施設の訪問です。オーストリアには、シリアやアフガニスタンからの難民だけでなく、様々な理由で学校に通うことができない人々が数多くいます。
OEJABの職業訓練施設では、年齢を問わず、このような人々にガラス加工や3Dプリンター、電気回路の整備などの専門的かつ実用的な教育が提供されています(写真1)。様々な理由により、これまで定職に着けなかった方々が、生き生きと授業を受けている光景がとても印象的でした。このように、様々な専門的「技術」が、新たに雇用を生み出す瞬間を目の当たりにしました。
2つ目は、国連のCTBTO訪問です。世界337か所から送られてくる核爆発の兆候を監視するための装置を見させていただきました(写真2)。ここでは、この監視システムといった「技術」により、我々の生活が密かに守られていることを実感しました。一方で、「技術」の使い方を誤ると、核爆弾のように多くの人々の脅威にもなりうることを痛感しました。
以上のように、私はウィーンの訪問で、「技術」は使い方により人々にプラスとなることもあれば、大きくマイナスとなりうることを学びました。今後、総合商社で働くにあたり、適切に「技術」を理解し慎重に使うことを意識することで、「技術と社会の架け橋となる商社パーソン」として今後グローバルに社会貢献したいと考えております。
(P.S. ウィーンの街並みは想像の3倍ほど美しいものでした。また、ご飯も最高に美味しく、飽きることなど無くあっという間の8日間でした。補足情報ですが、私は「グーラシュ」という煮込み料理にドはまりし、滞在中に10皿ほど食べました。)

世界を知った10日間
九州大学共創学部3年 三浦 愛佳

初めて中心街を訪れたとき。ウィーンでは道路が広く、開放感がありました。

「ウィーンじゃないみたい。」
空港からのトラムで初めてウィーンの街を見た私は驚きました。建物は中世風の石造りで、思い描いていたヨーロッパの街並みそのものなのに対し、そこにいる人はヨーロッパ系の人たちに限らず本当に多様な人たちが、自然な雰囲気で行き来していたからです。日本の暮らし、風景にのみ慣れ親しんでいた私は、この光景に目を奪われました。この出来事に始まり、私にとって今回の研修は「世界を間近に見て色々考える」ことの連続でした。
研修プログラムの中で最も記憶に残っているのが、国際連合ウィーン事務局を訪れたことです。本当に様々な人種の人が働いていたことにワクワクしました。偶然会った日本の大学からのインターン生が、実際に世界規模の問題に取り組んでいる様子を見て刺激を受けました。また、建物内を少し歩く間にも、「世界」を見据えた名前を冠している多くの部署があり、世界の諸問題に当たっては幅広く着実に対処していくことが基本なのだと学びました。
研修プログラムでは、移民への教育について学ぶ機会も多くありました。OEJABの移民保護と教育を行うセンターでは、ウクライナ移民女性とお話ししました。彼女は、「施設で参加しているドイツ語学習のおかげで、現在暮らしているウィーン(現地)のコミュニティに入りやすく安心して暮らせている。しかし同時に、ウクライナの文化やコミュニティも保持していきたいと思っている」と言っていたのが印象的でした。また、OEJABの職業訓練施設や政府施設では、移民の人たちは、同じ国から来た者のコミュニティに留まる傾向があり、そのため、就労機会の獲得等から遠くなってしまう。という悩みについて聞き、移民の方たちの、元々の文化やコミュニティも尊重しつつ、現地社会への統合を図ることの重要さ、難しさを学びました。
今回の派遣プログラムは、個人の観光では決してできない体験でいっぱいでした。また、5人の個性豊かでかっこいい仲間と一緒にいたことで、自分だけの視線、自分の世界感だけでは見えなかった世界を知ることができました。
一生の財産になる体験を、一生の友となる仲間と一緒に体験させて頂きました。
友愛の皆様、OEJABの皆様、そして終始同行してくれたニックには心より感謝いたします。

オーストリア社会から学ぶ対話のあり方
中央大学法学部2年 巳上 小楽咲

ウィーンやドナウ川のパノラマを一望できる「ドナウタワー」。高低差15mの滑り台はスリル満点でした

オーストリアは、音楽と芸術の中心地(巳上5)である首都ウィーンが有名なだけでなく、多民族国家としての歴史を持ち、多様性溢れる国として知られています。
10日間の研修を終えて、その煌びやかな印象の背後には、他者との衝突を辞さず対話を続けようとするオーストリア人の地道な努力が積み重ねられていることを学びました。
これに気づくことができたのは、行く先々で私たちのために意見交換の時間を設けてくださっていたからです。
ここでは特に印象的だった2つの場面について報告させていただきます。
1つ目は、社会統合政策の立案に携わる方と、難民問題についてお話したときのことです。多くの難民は同じルーツを持つ者で構成されるコミュニティに属し、コミュニティ外の人と積極的に関わろうとしないため、貧困の連鎖から抜け出せないという問題があるそうです。そこで私は「彼らがコミュニティ外に出ることを怖いと思っているとしたら、彼らに無理にコミュニティ外の人と接点を持ってもらう必要はあるのか?」と質問しました。すると「(接点を持つことは必要です。) 居場所として彼らだけのコミュニティも必要だが、(現在おかれている状況の)社会での自立を促した方が結果的に彼らのためになる。」と答えてくれました。この発言には、難民の立場に理解を示しつつも、同じ社会の一構成員として、見放してしまうわけにはいかないとの真の優しさが感じられます。
2つ目は、OEJAPが運営する教育施設を職員の方に案内していただいたときのことです。美術の授業で使用される教室(巳上6)には、日本と比較にならないほど多くの画材が用意されていました。その理由について「子供達が何を使いたいかわからないから。」だと教えてくれました。この細やかな気配りは、子供達が自由に発言することを促しています。
こうした対話のあり方はまさに「相互尊重・相互理解・相互扶助」の友愛理念を具現化したものであります。意見が違うことは相手との距離をとる理由とはならないこと、意見を言いやすい雰囲気は作り出すものであること。私はこれらを常に意識するようになって、より相手に寄り添ったコミュニケーションを進められるようになりました。この実感を大切に、今後は友愛ユニオンのメンバーとの連携をより一層深め、研修での学びを活かした社会貢献活動の企画や実践に乗り出していくつもりです。
最後に、研修に関わっていただいたすべての方に感謝の意を表し、報告書を締め括らせていただきます。ありがとうございました!

安心して住める場所そして生き甲斐
千葉大学医学部6年 金子 沙也佳

国連ウィーン事務局にて。CTBTO見学の後は、館内ツアーに参加しました!

今回のオーストリア派遣では、OEJABの職業訓練校や国連ウィーン事務局、連邦首相府、日本大使館の訪問など、大変貴重な体験をさせていただきました。プログラムの密度は大変濃く、朝から晩まで刺激を受ける毎日でした。その中でも一番印象的だったのは、OEJABが運営する職業訓練校、老人ホームの訪問です。
職業訓練校では、様々な授業が行われていました。ドイツ語クラスでは語学に加え、オーストリアの文化や歴史について学ぶことができます。また、ガラス加工や金属加工のクラスでは、技術職の国家試験の合格に向け、習熟度に合わせた授業を受けることができます。全てのプログラムが無料で提供され、各々が政府から個人的に補助金を受けることもできるそうです。オーストリアでは難民を自国の国民として受け入れ、この地に根付いてもらえるよう、さまざまな充実した取り組みが行われていることを実感しました。
また、社会保障面も手厚く、個人の収入に合わせた利用料で老人ホームに入居することができます。アロマを用いた匂いを重視するケアや天井が高く開放的な病室など、老人ホームとは思えないほど豪華な施設でした。看護師の人数も多く、一人一人に手厚いケアがされていました。日本とは違って州ごとに社会保障制度が運用されているそうで、地域の特性に合わせた対応ができる点が興味深かったです。
最終日にOEJABシュスラー前会長とお会いした際、「困っている人を助けるにはまず家、仕事から」と仰っていたことが今でも心に残っています。OEJABでは老人ホーム、学生寮、職業訓練校、青少年教育施設、など幅広い事業を展開されています。一見バラバラな事業ですが、その志は共通なのだと知り、感銘を受けました。
最後に、本派遣の実現に尽力いただいた友愛の皆様、アテンドしてくださったニックをはじめとするOEJABの皆様に心より感謝申し上げます。また、素敵な同期や先輩方との縁を大切にしながら、今後も精進して参ります。本当にありがとうございました。

個性を理解すること
北海道大学農学部4年 矢野 由佳

シェーンブルン宮殿にて。ここからミツコの墓まで丘を登ったのでこの日はかなり疲れた記憶があります。中は本当に豪華で両親へのお土産も買うことができました。

誰1人として性格の被らない個性豊かな6人での旅。巳上さんの言葉を借りれば「10日間の弾丸旅行」とでも表したくなるほど忙しく充実した日々でした。
今回の研修ではÖJABが運営する施設をはじめとし、CTBTOなど複数機関を含む国連事務局、在オーストリア日本大使館などを訪問しました。ÖJABは難民の方がこれからオーストリアで仕事をするための職業訓練の場を提供しています。その他にも介護施設の運営、学校をドロップアウトした生徒への居場所提供やヨーロッパの若者の活動支援も行っています。その幅広い活動内容に驚きましたが、授業の雰囲気も印象的でした。少人数で行われるため先生の目が行きとどき、一人一人の事情や個性を把握しているようです。私が出発前に掲げた「一方通行にならない教育」の手がかりとして、生徒を個として理解することは重要であると言えるでしょう。
また、研修先のみならず、私は個性豊かなこのメンバーから学んだことが多くあります。この6人は非常に不思議な集まりでした。同じものを見ても全員が異なる視点で考え、異なる質問が出てきます。一時はまとまりがなく心配にもなりましたが、10日間行動を共にするうちに、それぞれの個性を把握し、自分の立ち位置とお互いの関わり方を考え、最終的には不思議な一体感が生まれたと感じています。意見が合わなかったときは個々の主張を理解した上で「丸く収める」ことを学んだ私たちですが、これが友愛の一部になるだろうと考えています。
グループをまとめてくれた大野さん、心の拠り所の金子さん、物事への関心が尽きない出倉さん、はっきりとした主張の裏に大きな優しさが見える三浦さん、何事にも積極的で鋭い意見を持つ巳上さん。この素敵な5人と同じ船に乗れたことを嬉しく思います。そしてドイツ語・英語・日本語を操り、我儘な我々を終始アテンドしてくださったニックには感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。

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